和歌を通して王朝文化の輝きを追い求めた
藤原定家の撰による小倉百人一首

秀歌の背景を探訪することで古の歌人たちが詞と韻律に込めた
心模様が鮮やかに浮かび上がる

花の歌 ~梅~

花の色は移りにけりないたづらに我が身世にふるながめせしまに 009

009

花の色は移りにけりないたづらに
我が身世にふるながめせしまに

小野小町

人はいさ心も知らずふるさとは花ぞ昔の香ににほひける 035

035

人はいさ心も知らずふるさとは
花ぞ昔の香ににほひける

紀貫之

花の歌 ~桜~

ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ 033

033

ひさかたの光のどけき春の日に
しづ心なく花の散るらむ

紀友則

いにしへの奈良の都の八重桜けふ九重ににほひぬるかな 061

061

いにしへの奈良の都の八重桜
けふ九重ににほひぬるかな

伊勢大輔

もろともにあはれと思へ山桜花よりほかに知る人もなし 066

066

もろともにあはれと思へ山桜
花よりほかに知る人もなし

前大僧正行尊

高砂の尾上の桜咲きにけり外山の霞立たずもあらなむ 073

073

高砂の尾上の桜咲きにけり
外山の霞立たずもあらなむ

前中納言匡房

花さそふあらしの庭の雪ならでふりゆくものは我が身なりけり 096

096

花さそふあらしの庭の雪ならで
ふりゆくものは我が身なりけり

入道前太政大臣

花の歌 ~紅葉~

奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の声聞くときぞ秋はかなしき 005

005

奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の
声聞くときぞ秋はかなしき

猿丸大夫

ちはやぶる神代も聞かず龍田川からくれなゐに水くくるとは 017

017

ちはやぶる神代も聞かず龍田川
からくれなゐに水くくるとは

在原業平朝臣

このたびは幣もとりあへず手向山もみぢの錦神のまにまに 024

024

このたびは幣もとりあへず手向山
もみぢの錦神のまにまに

菅家

小倉山峰のもみぢ葉心あらば今ひとたびのみゆき待たなむ 026

026

小倉山峰のもみぢ葉心あらば
今ひとたびのみゆき待たなむ

貞信公

山川に風のかけたるしがらみは流れもあへぬもみぢなりけり 032

032

山川に風のかけたるしがらみは
流れもあへぬもみぢなりけり

春道列樹

あらし吹く三室の山のもみぢ葉は龍田の川の錦なりけり 069

069

あらし吹く三室の山のもみぢ葉は
龍田の川の錦なりけり

能因法師

花の歌 ~樹木~

たち別れいなばの山の峰に生ふるまつとし聞かばいま帰りこむ 016

016

たち別れいなばの山の峰に生ふる
まつとし聞かばいま帰りこむ

中納言行平

なにしおはば逢坂山のさねかづら人に知られでくるよしもがな 025

025

なにしおはば逢坂山のさねかづら
人に知られでくるよしもがな

三条右大臣

誰をかも知る人にせむ高砂の松も昔の友ならなくに 034

034

誰をかも知る人にせむ高砂の
松も昔の友ならなくに

藤原興風

村雨の露もまだひぬ真木の葉に霧立ちのぼる秋の夕暮 087

087

村雨の露もまだひぬ真木の葉に
霧立ちのぼる秋の夕暮

寂蓮法師

花の歌 ~草~

君がため春の野に出でて若菜つむ我が衣手に雪は降りつつ 015

015

君がため春の野に出でて若菜つむ
我が衣手に雪は降りつつ

光孝天皇

難波潟みじかき葦のふしの間も逢はでこの世を過ぐしてよとや 019

019

難波潟みじかき葦のふしの間も
逢はでこの世を過ぐしてよとや

伊勢

心あてに折らばや折らむ初霜のおきまどはせる白菊の花 029

029

心あてに折らばや折らむ初霜の
おきまどはせる白菊の花

凡河内躬恒

浅茅生の小野の篠原しのぶれどあまりてなどか人の恋しき 039

039

浅茅生の小野の篠原しのぶれど
あまりてなどか人の恋しき

参議等

八重葎しげれる宿のさびしきに人こそ見えね秋は来にけり 047

047

八重葎しげれる宿のさびしきに
人こそ見えね秋は来にけり

恵慶法師

かくとだにえやはいぶきのさしも草さしもしらじなもゆる思ひを 051

051

かくとだにえやはいぶきのさしも草
さしもしらじなもゆる思ひを

藤原実方朝臣

有馬山猪名の笹原風吹けばいでそよ人を忘れやはする 058

058

有馬山猪名の笹原風吹けば
いでそよ人を忘れやはする

大弐三位

夕されば門田の稲葉おとづれて蘆のまろ屋に秋風ぞ吹く 071

071

夕されば門田の稲葉おとづれて
蘆のまろ屋に秋風ぞ吹く

大納言経信

契りおきしさせもが露を命にてあはれ今年の秋もいぬめり 075

075

契りおきしさせもが露を命にて
あはれ今年の秋もいぬめり

藤原基俊

難波江の蘆のかりねのひとよゆゑみをつくしてや恋ひわたるべき 088

088

難波江の蘆のかりねのひとよゆゑ
みをつくしてや恋ひわたるべき

皇嘉門院別当